2018年2月に、路線バス業界に衝撃が走りました。
岡山市内でバスを運行する両備バスが営業する路線に、新興事業者である八晃運輸「めぐりんバス」が低料金で参入。そのことにぶちぎれた両備ホールディングス傘下のバス会社(両備バス・岡電バス)が「儲かっている路線に新規参入を認めて価格競争を挑まれたら、黒字路線の収益で維持している赤字路線は維持できない。だから31路線を廃止します!」と、国交省に廃止届を出してしまったという。
西大寺営業所の両備バス
廃止届こそ早々に撤回しましたが、地方公共交通機関を今後どのように維持するのかという問題を利用者に突き付け、「岡山市公共交通網形成協議会」なる行政と事業者による協議の場を設けるに至りました。
車内でアジる、アジる!
これは面白い…じゃなかった、重大な問題だ。というので、実は昨年の3月に現地にいっていたりします(笑)
両備ホールディングスは、実は知る人ぞ知る、大手かつ業界では知名度の高いバス事業者です。赤字バス事業者を次々に傘下に収めるとともに、路面電車の岡山電気軌道のノウハウを生かして、和歌山電鐵や宇都宮のLRT(建設中)の経営にも参画しています。
岡山電気軌道
和歌山電鐵のたま電車(サービスショット)
元々、岡山は中小バス事業者が群雄割拠しており、規制緩和が始まった際は中鉄バスが両備のエリアに参入してきたのをねじ伏せた、という過去があるようです。その後「めぐりん」が市内100円循環バスを運行、岡山電気軌道に価格競争を挑んで来たのが発端となり、さらに両備バスの創業路線に「めぐりん」が(さすがに100円ではないですが)参入したところでブチ切れたというところでしょう。
岡山駅前のバスターミナルに「めぐりん」の姿なし
さて、岡山駅に降り立ちました。東口と西口に、それぞれ立派なバスターミナルがあります。白とブルーの車両は、両備グループの車両ですね。他のバス会社の車両もぽつぽつ見かけますが…
めぐりんの姿は、まったくもって見かけない。
後発である「めぐりん」は、バスターミナルを使わせてもらえないようです。どこから出ているかというと、ターミナルの外にある岡山電気軌道の乗り場よりさらに遠く、駅から10分近く離れたところの道路上にある「岡山駅前」というバス停から出ています。
どうやら、東口のバスターミナルは歴史が浅いようで、他のバス事業者もこの道路の並びに「岡山駅前」停留所を設置、今も運用しています。
その中で、ひときわ目立つ乗り場がありました。
歩道の上に、バス停の上屋というよりは小屋が。中に入るとエアコンも入っている。バスロケーションシステムの電光表示板もある。「宇野バス」という事業者専用のバス停です。
どう見ても家庭用のエアコンというのが味(笑)
「宇野バス」その正体とは
「宇野バス」は、もちろん両備グループの傘下ではありません。岡山駅から北東部方面への長大路線をメインに運行している事業者で、実はいろいろユニークなことをやっています。
例えば、さすがに岡山駅前のバスターミナルに入れないということはないのですが…
岡山市を代表する観光地「後楽園」への直行バスを100円で運行しています。両備グループの岡電バスだと、寄り道する上に140円かかります。ガチで価格競争挑んでるやん。
「宇野バス」の自慢は、料金が全国の民間バスで一番安いということ。実際、両備グループのバスは、宇野バスとの競合区間を過ぎ去ったとたんに料金の上げ幅がアップ(笑)
また、道路の拡幅を自ら資金を出して行ったり、バスロケーションシステムやWifiを岡山で最初に導入したり、ノンステップバスを普及するという国策に逆らって、かわりにタイヤを小型化することで床の高さを低くしてバリアフリー化を図ったり。まぁ簡単に言えば地元大手バス事業者の神経を逆撫でするようなことばかりやっている(笑)
実際、岡山駅には乗り入れているものの、老舗デパートにある「天満屋バスセンター」には宇野バスは乗り入れていないのですね。宇野バスの本社(表町バスセンター)がすぐ近くにあるのに。
せっかくなので、ここで「宇野バス」のホームページを見ていただきましょう。http://www.unobus.co.jp/ubcompany.html#tab2
(実は「宇野バス」の車両を撮影し忘れたので、グレーとこげ茶を基調としたシックなカラーリングの車両を見て欲しいという気持ちもあり。)
もっとも、実際にはきれいな話ばかりではないようで、障がい者団体から「何でノンステップバスを入れないんだ」と言われたり、バス車両の更新も近年では滞ったりはしているようです。
筆者は「宇野バス」suicaで乗ろうとしたのですが、ICカードリーダーがあるにも関わらず、利用できませんでした。地元専用の「ハレカ」でないと乗れないようです。両備グループのバスはsuicaで乗れたのですが…おそらく国土交通省からもにらまれているに違いない(笑)
「ハレカ」買ってね
間違いなく岡山バス民は競争の恩恵を受けている
上記の通り、「宇野バス」は価格面やハード面、サービスにおいても、規格外の事業展開で、岡山市やその近郊において独自の地位を占めています。
おそらく、岡山エリアが両備グループの独占だったら、料金も今より高かったでしょうし、「めぐりん」が岡山市内に参入する余地もなかったでしょう。何よりこの面白いバス会社を見ることはできなかった訳です。その点では、岡山バス民は競争の恩恵を受けているといえるのではないでしょうか。
【おまけ】
岡山のバスには、両備グループのバスも、宇野バスも、中鉄バスその他のバスも、窓に日よけがついています。広告よりも快適性ということでしょうか…でも、めぐりんだけにはついていなかったり(笑)
コメント